N. 【福島県】
こちら福島県では桃が色づき始め、本格的な夏の訪れを感じるようになりました。福島県の桃の生産量は、山梨県に次いで二位。市場規模では約2割を占めています。
震災前、贈答用や御中元用として、福島の果物はどこへ送っても喜ばれるものでしたが、原発事故以後は送る側として気を遣ってしまい、もっぱら自家用として食べることが増えました。もちろん、市場に流通している果物は出荷制限の基準値内の品であり、生涯食べ続けたとしても問題ない量が基準値として定められています。
ただ、中には「福島」と聞いただけで、連鎖反応のように「原発事故=危ない」という図式が頭の中に浮かび、出来れば行きたくない、福島産の物は避けたいとお考えになる方も少なくないと思います。
しかし、そのイメージのほとんどは漠然とした不安から発生しているものであるように思います。「何がどう危ないのか?」という視点が抜け、ただ得体の知れない未知の物に対する悪いイメージだけが増長しているように感じます。
確かに、低線量被爆による人体への影響など医学的にも判然としないこともあるとは思います。ですが、私が思うに、これだけ微妙な量の放射線量だと、生活習慣の乱れや加齢など、その他の要因の方が大きくなってしまい、低線量被爆と身体的影響の因果関係を科学的に証明することができないというのが本当のところではないでしょうか。
前述のとおり、水や食物中に含まれる放射性物質の出荷制限の基準値は、生涯食べ続けたとしても問題がない量とされています。マグロに含まれる水銀、ひじきに含まれるヒ素のことは話題にすらのぼらないのに、なぜ放射性物質にだけはこんなにも過敏になってしまうのだろうかと思います。
おそらくそれは誰も経験したことがない不安からくるものでしょう。
私自身は、地元産の物(図1)でも気にせず、普通に食べています。とは言っても、もし将来、自分が甲状腺がんになったとしたら、後悔せずにいられるだろうか?とも思います(甲状腺がんの発現率は福島県とそれ以外の都道府県で有意な差はありません。念のため)。
福島に暮らしていながらも、そんな微妙で複雑な心情になることもあります。五感で感じられないので、普段は放射能のことなど忘れているのですが、空間放射線測定器の前を通りかかったりすると、つい値のチェックをしてしまいます。
私の事務所近くの保育所前にも空間放射線測定器があります(図2)。県内の至る所にあります。私の事務所のある鏡石町は原発から約60キロ離れていますが、この日は0.109マイクロシーベルト毎時を表示していました。
やはり小さな子供のいる世帯では、放射能に気を遣っている人が多く、食べ物だけでなく屋外活動の時間を制限したり、放射線量が高い場所に近寄らせないようにしたり、庭の土を入れ替えたりしていると聞きます。
と同時に、屋外活動の時間が減り、狭い仮設や借り上げ住宅での暮らしが続いていることで、福島の子供の肥満率の上昇が問題となっているそうです。目の前に豊かな自然があるのに、子供たちに自由に遊ばせてあげられないというのはやるせない気持ちになります。
その他の問題としては、ADR(裁判外紛争解決手続き)の長期化が挙げられます。全町が避難している浪江町では、13年5月に損害賠償の月額5万円の増額をADR申し立てして以降、延べ300人以上の申立人が亡くなりました。
和解案が示されたにもかかわらず、東京電力が受け入れを拒否しているためですが、亡くなられた方の分を誰が請求するのか、そもそも亡くなられた方の分を請求することが可能なのかどうかさえ決まっていません。
裁判での紛争解決の長期化を避け、迅速公平な解決を目指すというのがADRの目的であるなら、何のためのADRなのかという疑問がぬぐえません。
最後に、業務関連の話題。
福島県は宮城県についで全国2位の地価上昇率となっています。最近では、被災者の住宅需要が多いのと、相続税対策としての側面もあることから賃貸併用住宅の建設が多くなっていると実感します。業務としては、それに伴っての農地転用が多いです。農地転用をした後に、建物が建設されると、すぐに満室の表示になっていますので、これからしばらく多くなるのではないかと予想しています。
それでは、今回はこのあたりで。暑い日が続きますが、皆様お元気にお過ごしください。
福島県行政書士会所属
面川麻美
行政書士白門会復興サイトをご覧いただきまして、誠にありがとうございます。
2014年4月時点での福島県における現況、復興への足取り、復興に向けた課題につきまして、僭越ですが、ご報告させていただきたいと思います。
1.原発事故損害賠償請求権の時効延長法成立
昨秋(2013年)、白門会有志の皆様が、福島県に親睦旅行にお越しになった際、話題とされたのが、民法上の不法行為の損害賠償請求権の時効の問題でした。3年という時効期限が間近に迫る中、未請求者の掘り起しが問題となっていましたが、その後、2013年12月の国会で、「時効延長法」が成立し、10年に延長する特例法が成立いたしました。原発事故の影響が長期間に及ぶとみられる中、歓迎すべき一歩前進でした。
今後は、時限立法である震災特例法の延長の有無を踏まえながら、適時・適切な被災者支援に当たりたいと考えています。
2.精神的損害の一括賠償開始へ
平成25年12月26日に原子力損害賠償紛争審査会において決定された中間指針を踏まえ、帰還困難区域および町の大半が帰還困難区域となっている大熊町と双葉町の全域の住民を対象に、1人あたり700万円を支払うことを東京電力が発表しました。2014年4月14日から請求受付が開始される予定となっております。
3.震災後から、これまでの経緯。
未曾有の大震災と原発事故から3年。
福島県郡山市にあります「日本行政書士会連合会被災者相談センター福島事務所」においても、月日の経過とともに、寄せられる相談内容が、以前とは少しずつ異なってきているように感じられます。
相談センターには、開設当初から、相談者の基本情報や相談内容を書き溜めている対応メモがありますが、今では分厚いファイルの3冊目に入ろうとしています。
先日、その対応メモを振り返ってみました。
2年前、2012年にセンターが開設されたころの相談では、そのほとんどが、震災と原発事故による直接的な被害への相談でした。
―――具体的には「津波で自宅と家族を流された」「原発事故で立ち入りができず、津波で流された家族を探しに行けない」、「土地から高濃度の放射線量が検出された」「避難先が見つからない」といった、震災と原発事故そのものが原因の直接的かつ深刻な被害への相談です。衣食住と健康そのものがおびやかされるような切迫したものが含まれていました。
その後、徐々に放射線に対する不安と避難生活が落ち着きを見せ始めるにつれて、東京電力への精神的損害についての賠償請求、土地・建物・家財といった財物の賠償請求、避難区域内に乗り捨ててきた自動車の永久抹消手続きに関する相談が多く寄せられるようになりました。特に、避難区域内の自動車については、区域に立ち入りそのものができないという前代未聞の事態が生じたため、自動車の特例抹消と東京電力への費用請求に関して、福島県内の行政書士の先生方でチームを組んでご対応していただき、被災者の皆様に大変喜ばれました。
と同時に、この頃の東京電力の賠償請求書書式は難解で分かりにくく、煩雑であったため、請求書への記載方法の問合せや財物の評価方法に対する問い合わせ等が多く寄せられていました。
年が明け2013年には財物に関する賠償が開始し、未登記建物についての賠償をめぐる相談が出始めました。どういうことかと申しますと、福島県に限らず、田舎ではよくあることだと思いますが、「家と田んぼは、長兄が継ぐのが当たり前」というような昔からの慣習的・世俗的な相続が行われ続けていたために、何代にもわたって相続登記や移転登記が行われておらず、相続人を確定できない事態が発生し、東京電力が賠償金を支払うことができないという事態が起こっていたのです。寄せられた相談では「財物賠償請求のために調べたところ、相続人がいるらしいことがわかったが、委任状がないため戸籍を取得出来ず、遺産分割協議もできないので、東京電力から行政書士へ依頼するように言われた」といったものなどがありました。(※この『相続人を確定できない』という問題点については、東京電力との間で、公正証書を利用して債務弁済契約を締結することで賠償を受けられるようにするという確認書の利用が始まっています。)
4.最近の相談内容・動向
2014年に入り、最近では「避難生活で住居を転々とするうち、家族が亡くなった」という震災関連死ともいえる相談や賠償金についての兄弟間でのもめごと、家族問題、生活再建に係わる問題への相談が増えてきたように感じます。特に近頃は、賠償格差への不満が多く聞かれています。
直近に寄せられた相談で、印象的だったのが、原発事故避難者に対する不満を抱えた、地元住民の相談でした。相談者の話によれば、「震災以前から、地元でセールスの仕事をしていたものの、仮設住宅避難者は賠償金をもらって生活し、旅行に行き、新しく車を買い替える余裕があるのに、セールスに行っても無下に断られる。『自分も同じ地域に住んで、原発事故被害にあったのにこの差はなんだ。到底納得できない』と考えているうちに思いつめ、精神的に追い詰められてしまった。避難者に対する不満が消えない」というものでした。
国際的な難民問題でも起こりうることだと思いますが、最初は「大変な状況だから」と避難先に温かく迎えいれていたのが、自分たちよりも避難者の方が、恵まれたような環境にいるようにみえる「錯覚」が起こった時、住民間に大きな溝を作ってしまいます。
その一例として、県内では2014年3月現在、いわき市、福島市、郡山市といった都市部において避難者の生活再建に向けた住宅需要の高まりが平均地価を押し上げており、22年ぶりとなる高止まりの状況が続いています。
特に、いわき市では震災と原発事故の避難者が集中しているため、住宅地を求める避難者の需要の高まりによる、急激な地価の高騰(上昇率11パーセント。全国10位以内の値)がみられ、供給が逼迫し、競争が激化しているため、一部地域において震災前から居住している地元住民と避難者との間に軋轢が生じています。
そして、地価の高騰と住宅需要の高まりが、避難者の避難前の自宅売却や賃貸借を加速させ、ますます住民帰還が遅れるという一因を招いてもいます。
また、同じ市町村内に違った避難区域が設定されている場合、受けられる賠償に格差が生じることとなり、その線引きを巡って、同じコミュニティに属していた住民同士が互いに不満を持つ事態も起こっています。
5.5つの「ふ」
日頃、相談員として、被災者の皆様の声を直接聴き、面談でお話しさせていただいておりますが、相談者の皆様に共通するのは、5つの「ふ」で始まる言葉です。それは、相談者の「不安」と東京電力、政府などに対する「不満」「不信感」、「憤慨」そして「風評」です。
背景には、国直轄で進められるはずの除染や再除染が進んでいないことや手抜き除染、度重なる汚染水漏れ、ALPS(アルプスと呼ばれる多核種除去装置)の不具合・停止トラブル、それに伴う東京電力の発表の遅れと、トラブル隠しと邪推してしまうほどの対応の遅さ・稚拙さが、住民の「不安・不満・不信感・憤慨」を増長させている気がしてなりません。
6.復興への光と影
2014年4月1日午前0時、東京電力福島第一原発事故に伴う田村市都路町の避難指示解除準備区域に対する避難指示が解除されました。福島第一原発から半径20キロ圏に設定された旧警戒区域での避難指示解除は初めてとなります。大震災から3年の月日が経ち、ようやく「帰還への第一歩」と避難指示解除を歓迎する声もありますが、避難指示が解除されたとはいえ、放射線への健康不安、教育や雇用面での不安、生活環境の不便さから帰還を見送る住民も多数います。
震災から3年と言えば、当時中学生や高校生だった子供たちは、既に学校を卒業しています。避難先での生活にも慣れ、新たな人間関係を構築し、職場や学校、地域において、震災以前とは違うコミュニティに属しています。特に、福島市や郡山市、いわき市といった、病院や商業施設、教育施設などが充実した便利な中核都市に避難した避難者にとっては、先に述べたような不安や不便さを抱えながら帰還するメリットは少ないように思えます。
中でも深刻なのが、「産業」です。都路町商工会に加盟していた事業所のうち、事業再開自体は8割の事業所が再開しているものの、ほぼ避難先での営業再開となっています。そして、地元で再開した事業所はほんの一部で震災前の事業者数の五パーセントにとどまります。背景には、自由に居住できる旧緊急時避難準備区域でも住民の帰還率が3割にとどまっており、採算がとれないことに原因があります。帰還後1年で打ち切りが決まっている賠償額(※)をもとに、1年間で以前の生活を再建させることは、難しく困難がともなうと考えられます。
また、昨年6月末に除染が完了したとはいえ、区域内には、除染の長期目標とする年間追加被ばく線量1ミリシーベルト(毎時0.23マイクロシーベルト)を上回る場所が残っています。しかし、国は避難指示解除準備区域の解除を表明した2月、「宅地の線量が除染前より平均45パーセント低減し、年間積算量も市内他地域と同程度」と説明し、再除染は行わないとしています。そのため、住民からの不満も多く、再除染を望む声や線量の再測定を求める声もあがっています。
子育て世代にとっては、こうした放射線への健康不安は強く、帰還は難しいものといえそうです。復興は、この「若者世代」と「子育て世代」にいかに戻ってきてもらうかというところがカギとなりそうです。
※旧緊急時避難準備区域(原発から30キロ圏)の避難指示解除後の賠償について、東京電力は、住民一人当たり毎月10万円の慰謝料(精神的損害)は1年間を限度とし、引っ越しなど帰宅に必要な費用として、1人当たり18万5千円を支払うことを発表。1年以内に戻った人には早期帰還者賠償(一律90万円)が上乗せして支払われることとなっていますが、精神的賠償が解除後1年で終了が決まっています。
7.震災関連死・自殺者増
福島県では、2014年3月時点で震災関連死・原発事故関連死の死者数1667人に上り、地震と津波による直接死の死者数1607人を上回っているという状況にあります。
そして、大変残念なことですが、現在、福島県内においては震災や原発事故が原因とみられる自殺者が増え続けています。昨年末時点で46人もの方が自ら命を絶たれました(平成25年23人。同24年13人、同23年10人。左図は福島民友新聞より抜粋)。被災3県のうち他2県が岩手29人、宮城35人であることと比べると、福島県が突出していることがわかります。要因としては、長引く避難生活や就労不能等による被災者の心理的負担が要因とみられています。
ただ、この自殺者数の統計には、福島県からの県外避難者は含まれておらず、県外避難先で自殺を図っていることも考えられることから、実態はもっと深刻ではないかと懸念されています。避難者や被災者の中には、自殺を招くおそれのあるうつ病やアルコール依存症に陥っている方も少なくないため、早急な対策が望まれています。
また、仮設住宅住まいを強いられ、誰にもみとられずに一人で死亡した「孤独死」は2014年3月末現在で累計34人に上っています。孤独死した人の全体の8割を男性が占めており、避難長期化・広域化により、家族や地域とのつながりが薄れ、孤立を深めていった結果、仮設住宅や借上げ住宅にこもりがちになり、薬やアルコールに依存してしまうといったケースも少なくないと考えられています。年々増加が見られ、その孤立防止策が課題となっています。
8.今後の展望
2014年4月9日から原発事故による汚染水対策の柱となる地下水バイパス計画が、いよいよ本格的に始動することとなりました。「地下水バイパス計画」とは、左図(福島民友新聞より抜粋)のように山側から原発建屋建屋に向かって流れ込む地下水を、汚染される前にくみ上げることによって、汚染水の発生を抑制するというものです。地下水の汚染濃度次第で、くみ上げた水が海に直接排出される可能性もあることから、地元漁協が強く反発し続けていましたが、排出基準厳守を条件に漁協側が受け入れたという経緯があります。
実際に計画は始まりましたが、順調とはいえない状況です。くみ上げ開始2日目には、12本あるくみ上げ専用井戸の1本から排出基準1500ベクレルに迫る値の1300ベクレルのトリチウム(三重水素)が検出されましたが、東京電力は「くみ上げを停止するか、継続するかは未定」とし、当初は「くみ上げを停止する」としていた方針とは異なる対応をしており、危機管理体制の不備と批判を浴びています。また、東京電力の計画では、12本の井戸ごとにくみ上げた水を一時貯蔵タンクで一緒に保管し、水質分析で問題がなければ海に放出するとしており、仮に1本の井戸から排出基準を超えても他の井戸水と混ざることで、濃度が薄まり、結果的に放出基準を下回るとしています。
この東京電力の計画を前提とするならば、汚染水を薄めることで排出基準濃度以下に抑えることができ、全体のトリチウム排出量が変わらなくても海に直接排出ができるということになります。これで、「排出基準」の意味があるのでしょうか?
排出基準を設けたのであるならば、基準を超えた井戸ごとにくみ上げ停止をすべきであると思います。
水質に問題がなければ、5月中旬にも海に排出される方針となっていますが、分析過程に関する情報公開の在り方が今後の課題となりそうです。
9.最後に
福島第1原発事故の廃炉へ向けた収束には、なお多くの時間を要するものと思われます。
避難生活の長期化が予想される中、今後も被災者の皆様に寄り添って支援を続けていくことが望まれています。避難者の方は、今もなお、北は北海道、南は沖縄にまで全国各地において避難生活を送っております。相談センター福島事務所にも九州や大阪といった遠方から電話をかけてくる方がいらっしゃいますが、もし避難先で気軽に面談での相談ができるようになるとしたら、相談者にとっても安心感が各段に違うのではないでしょうか。
その点、全国各地に多くの会員がおり、地域に密着した事務所を開いている行政書士の先生方が多いことから、各地域の先生方にも福島県外原発事故避難者の相談についてご対応いただけましたら、幸いに思います。
今年も全国各地で桜を楽しむ様子が報道されましたが、震災後3度目の春を迎えた福島の人々が、またいつか故郷で桜を見ることができますようにと願わずにはいられません。
稚拙な文章で申し訳ありませんが、ここまでお読みいただきましてありがとうございました。
福島県行政書士会所属
面川麻美